2024年3月18日、世界的なオークションハウスであるフィリップスは、清朝最後の皇帝・溥儀(ふぎ)が所有していたパテック フィリップの超高級時計「Ref.96 カンティエーム・リュンヌ」を展示・オークションに出品すると発表しました。専門家の予想では、この時計の落札価格は3,000万ドル(約2億人民元)を超える見込みで、時計オークション史上最高額の一つとなる可能性があります。
歴史を刻む時計の物語
この時計が製造されたのは約1世紀前の1920年代。当時、パテック フィリップはヨーロッパの王侯貴族向けに特別な時計を製造していました。若き溥儀皇帝がどのようにしてこの時計を入手したかについては諸説ありますが、西洋文化に強い関心を持っていた溥儀が、側近を通じて直接購入したという記録が残っています。
溥儀の激動の人生と共にあったこの時計は、満州国時代から戦後の収容所時代まで、数奇な運命をたどりました。時計専門家のジェームズ・マークス氏は「この時計の真の価値は、単なる技術的傑作というだけでなく、20世紀の東アジア史の重要な証人である点にある」と指摘しています。
パテック フィリップの現状
一方、このオークションが注目を集める背景には、「時計の王者」と呼ばれるパテック フィリップ自身の経営状況があります。近年、同社は以下のような課題に直面しています:
- 若年層を中心とした機械式時計離れ
- スマートウォッチ市場の急成長による伝統的高級時計市場の縮小
- コレクター市場における価格バブルの崩壊懸念
- サステナビリティへの対応遅れ
スイスの時計業界アナリスト、ルカ・ソレッティ氏は「パテック フィリップはブランド価値を維持するために、歴史的遺産を積極的に活用する戦略を取っている。溥儀の時計オークションはその一環だ」と分析しています。
コレクター市場の動向
今回のオークションは、中国を中心としたアジアの富裕層コレクターから大きな関心を集めています。特に、以下の要素が高額落札を後押しすると予想されます:
- 溥儀という歴史的人物の所有品であること
- 現存数が極めて少ないパテック フィリップの初期モデルであること
- 完璧な状態で保存されていること
- 中国の文化財回帰ブーム
香港を拠点とする時計コレクターのウィリアム・チェン氏は「この時計は単なる装飾品ではなく、投資対象としての価値が極めて高い。過去10年間で高級時計の投資リターンは株式市場を上回っている」とコメントしています。
今後の展望
パテック フィリップはこのオークションを契機に、ブランドの歴史的価値と現代的な魅力を融合させた新たなマーケティング戦略を展開するとみられます。特に、以下の方向性が注目されます:
- デジタル技術と伝統的時計技術の融合
- アジア市場向けの特別コレクション展開
- 若年層向けのエントリーモデルラインの拡充
- サステナブル素材の採用
今回の溥儀時計オークションは、単なる高額取引きを超えて、伝統的高級時計業界の転換点を示す象徴的なイベントとなるかもしれません。結果は2024年秋に発表される予定です。
